Golf My Wonderland

ゴルフエッセイ~見たこと読んだこと気づいたこと~気ままに書いています。

「ゾーンの入り方」(室伏広治著)を読む・・・

「ゾーンの入り方」(室伏広治著)を読む・・・

❖ 著者の室伏広治は親子2代にわたる日本を代表するハンマー投げ選手として世界に名を轟かせたアスリート中のアスリートで、現在は東京医科歯科大学教授としてスポーツ学研究を重ねている一方、2020年の東京オリンピックの役員として活躍している。

❖ ところで、これまでゴルフの「ゾーン」に関する書物は数冊か発売され読んでもいるが、ゴルフ以外のスポーツ選手や研究者の書いた本ははじめてなので興味深く読んだ。その感想は、やはりゴルフでも他のスポーツでも、アスリートが経験する「ゾーン体験」には共通点が多いことに改めて発見するところが多くあった。

❖ 「ゾーンに入ったプレー」とは、技術の錬磨とそれに伴う肉体、そしてゲームを最大化するメンタル強化、この3点をバランスよく調和して、最大限の力量を発揮するプレー、とでもいえようか。その体験を語る室伏は「すごく集中しているけれど、同時に無駄な力が抜けていてリラックスしている。集中しているという意識すら忘れてしまうほど没我のような状態の中で、体とハンマーの回転のスピードはどんどん加速しているのに、すごくゆっくり感じる」といっている。この時の室伏はもちろん新記録を樹立している。

❖ 一方、「私は、マスターズ最終日のバックナインで起こったことをはっきり思い出せる。最後の7ホールで5つバーディを奪ったが、何もかもゆったりしたベースで進み、自分が打ちたいショットの軌跡がはっきりと見え、グリーンにボールがどのようにころがっていってほしいかも完璧にイメージできた。」フィル・ミケルソンが2004年「マスターズ」で優勝した時のコメントである。ゲームは違えども共通したゾーンプレーにあることが分かる。

❖ 「ゾーン」といういい方は日本でよく使われるが、「フロー」という表現もある。普段この2つの言葉はほぼ同様な意味に使われることが多いが、「ゾーン」と「フロー」を多少分けて分類している研究者もいる。「フロー」という集中力の流れの中でも、極限的集中力を発揮する状態を「ゾーン」と分けていう。いずれにしても「ゾーン」や「フロー」はスポーツ競技に使われることが多い。一般の社会生活の中でも生まれるがここでは触れない。

❖ さて、著者は「ゾーン」が発生する環境についてこう述べている。「努力も経験も成果も足りない時に偶然にそういうことが起こるとは考えられません。心技体が合致するレベルになり、自分が追求してきたことが頭でも体でも実感できるようになってきたときに、そういうパーフォーマンスができるようになったのだと思います」と。アスリートというスポーツマンでなければ「ゾーンに入る」ことは難しいことを暗示している。

❖ さあ、我々アベレージゴルファーのレベルで、「ゾーンに入った」経験の話を聴くことがある。それはどう違うのであろうか。単なる「ツキ」あるいは「運」なのでしょうか。確かに集中した状態にある時は、ボールが好条件のところに飛んで行き、ホールアウトしてみると、自分のベストスコアを記録することがままある。そういう時は「ゾーンに入った」ゴルフとはいわないのだろうか。この辺を問うてみたいところである。

❖ この本には、ゾーンやフローに必要な「集中力」について、オリンピックという大舞台の経験を踏まえた体験やそこから導き出された「集中力のづけ方」、あるいは「自分の限界」に対する挑戦の仕方などが詳しく書かれていて、我々ゴルファーにとって教えられるところが多い。「ハンマー投げ」というスポーツが「やり投げ」や「野球のピッチャー」と同じように一人で自ら心技体をコントロールするというゴルフと共通するものがあるからだろうか。

❖ この本にはスポーツを推進して行く上で「目的、目標の設定」と練習についてやスランプに陥った時のものの考え方など、スポーツ環境のなかで生まれる様々なエレメントを、室伏の長い体験と研究から生み出された解決策が盛沢山に書かれている。大方がゴルフに共通して、大いに刺激される書籍であった。

注:「ゾーンの入り方」室伏広治著 集英社新書 2017年10月刊





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