詩歌の好きなゴルファーには ピッタリの本「ゴルフの歳時記」 舟橋栄吉 著
Bookreview
舟橋栄吉著 「ゴルフの歳時記」~玉すじの中にみた人生~
出版:学校法人広池学園出版部 平成6年4月発行
❖ 「夕月に尻つんむけて小田の雁~小林一茶 この句は、いみじくもバンカー・ショットの極意をわれわれに教えている。つまり、バンカーに入ったら、なにをおいてもまず、自分の尻の穴を砂につんむけるように構えをとれ――といっているのである。」これは著者の好きな俳句とゴルフを結び付けて書いた第6章「ゴルフの歳時記」からの引用であるが、ことほどさように、俳句の名作とゴルフを結び付けるというユニークな視点からゴルフ本を著している人を知らない。
❖ 著者は歌人であり作家、スポーツエッセイストとして若い時より活躍した人で、業界にはあまりみあたらないが、この人、ゴルフのほかのスポーツにも詳しく、若いころ野球のノンプロ球団に所属して活躍、その後ゴルフに一念発起し、クラブ選手権を始めアマチュアのシニア選手権などで大活躍している。後年は姪の舟橋由美子をプロに育てるという特異の人である。
❖ 本書は著者の活動分野の文芸分野と好きなゴルフ人生を結び付けた誠にユニークな、そして内容の深い作品になっていて、アマチュアゴルファーには非常に参考になる。また歌人として歌集を著しているほどで、文武両道の人だ。斎藤茂吉の歌や万葉の古歌、李白の唐詩、石川啄木の詩、俳句は芭蕉、蕪村、一茶はじめ名句名詩の数々がゴルフと結び付けられて登場する。文章も男らしくきびきびしていて、それでいて視点がこまやかである。
❖ 通読して、詩歌とゴルフの両分野に関心ある人にとっては、誠に楽しい内容といっていいのではなかろうか。プレーに真剣になりながらも、川面を彩る鳥類草木を楽しむあたり、心の余裕というか、プレーのみに捉われない姿が大いに参考となる。
❖ 著者はどんなことにも研究熱心とみえ、ゴルフ・ショットについての自己研究には他人を寄せ付けない。特に関心を引いたのは、著者が河川コースで研磨し実力を磨いたその追求で、河川コースの特色を細かに分析しているところが実に参考になる。たとえば、内陸部の林間コースは、耕地の黒土、山岳コースのそれは、客土と腐葉土の混合体、河川敷はコンクリートに等しい硬い粘土質で、コースの土質によってショットの内容が異なってくるという。
❖ 荒川の河川敷ゴルフ場は、押しなべて北から南へ風が吹き、芝目もその方向になびきやすい。そして土質はほとんどが砂や粘土の粒子が交じ合い堆積したもので、日照りが続くと固いコンクリートの状態になって、水分を土中に浸み込まない土質になるという。そのせいでショットは、クラブヘッドをスムーズに抜くのは難しくなるらしい。
❖ そうした土質あるいはそこに付着している湿度の状態などを、いちはやく見抜く眼力もゴルフの技術うちで、「ライ」とか「土質」を事前に観察することも河川コースから学ばせてくれることだという。この辺の河川コースの特色をさまざまな角度から観察している視点はこうしたコースのプレーヤーは大いに参考になると思う。
❖ 著者はこのほかにも「複眼のゴルフ」~全国の名門コースをそれぞれの地元の名手とプレーした記録や「ゴルフのため息」「ゴルフ10本」などゴルフエッセーをつづった書籍がある。大正8年熊谷生まれというから今年で100歳になろうか。ご健在であるかどうかは不明。彼を引き継いで、文武両道のゴルファーが多く現われ、われわれにゴルフの楽しさを多面的に描いてくれることを期待する。